自動化とスマート機器
小規模オフィスにスマートロックは必要か
スマートロックの要否は便利さではなく、鍵の受け渡しと回収がどれだけ発生しているかで決まります。導入が要る条件と見送ってよい条件、賃貸オフィスで先に確認すること、電池切れや通信断への備えまでを整理しました。
SCOPE
- 対象
- 少人数のオフィスや自宅兼事務所で、鍵の管理に手間を感じている経営者
- 到達点
- 導入の要否を条件から判断し、必要な場合の確認事項が分かる状態
先月まで手伝ってもらっていた人から、合鍵がまだ返ってきていません。催促するほどでもないと思っているうちに、次に入った人には新しく1本作って渡しました。鍵の管理が回らなくなるときは、たいていこの形で始まります。本数が増えたというより、いま何本が外に出ていて誰が持っているかを、即答できなくなっています。
物理鍵の運用にかかる手間は、鍵の本数ではなく「受け渡しと回収が何回発生するか」で決まります。5人いても全員が同じ時間帯に出社して同じ時間帯に帰るなら、鍵が動くのは年に数回です。逆に3人でも、稼働時間がばらばらで月に何度か外部の人が出入りするなら、鍵は毎週動きます。
スマートロックを入れるかどうかは、この回数から判断します。以下は、要否の判定、賃貸物件で機器より先に確認すること、導入するなら決めておく項目、の順に並べています。判定の段階で見送ると決まったなら、そこで読み終えてかまいません。
鍵の管理が壊れるのは、人数ではなく例外が増えたときです
物理鍵は、毎日同じ人が同じ時間に出入りしているあいだは問題なく回ります。壊れるのは例外が入ったときです。
例外は、だいたい次の形で来ます。
- 短期間だけ入る人(業務委託、繁忙期の応援、清掃や修理の業者)
- 通常の時間帯を外れた出入り(早朝の納品、土日の作業、夜間の対応)
- 自分が不在のあいだに、誰かが中に入る必要が出た場面
例外が起きるたびに、事前に鍵を渡すか、その場まで開けに行くか、どこかに置いておくかを選ぶことになります。3つ目を一度でも選ぶと、そこから運用は緩みます。置き場所は固定化し、誰まで知っているかが分からなくなります。
物理鍵には、もう一つ構造上の弱点があります。複製されたかどうかを確認する手段がないことです。回収できた鍵についても「複製されていない」とは言えません。人が抜けるたびにシリンダーを替えれば安全側に倒せますが、毎回その費用と手間を払える小規模オフィスは多くなく、結局は替えないまま持ち越すことになります。
導入が要るかどうかは、直近3か月を数えれば判定できます
感覚ではなく回数で決めます。直近3か月について、次の4つを数えてください。
- 鍵を渡した回数と、回収した回数。差があるなら、その差が回収できていない本数です
- 開け閉めのためだけに移動した回数
- いま外に出ている鍵の本数と、それぞれの持ち主を即答できるか
- 直近で人が抜けたとき、シリンダーを替えたか。替えていないなら、その理由
数えた結果、次のどれかに当てはまるなら、導入を検討する段階に来ています。
- 出入りする人が固定でなく、月に1回以上、鍵の受け渡しが発生している
- 契約終了や退職が年に数回あり、そのたびに回収の確認が要る
- 施錠の最終責任者が1人に集中していて、その人の予定が業務時間の制約になっている
- 自宅兼事務所で、生活の出入りと仕事の出入りが同じ扉を通っている
最後の条件は見落とされがちです。自宅兼事務所では、業務上の合鍵を渡すことが住居の鍵を渡すことと同じ意味になります。時間帯や期間で権限を区切れる仕組みの価値は、同じ人数のオフィスより大きくなります。
入れないほうがよいケースもはっきりしています
次に当てはまるなら、見送って構いません。
- 鍵を持つ人が2人以下で、1年以上入れ替わっていない。受け渡しそのものが発生していないので、電子化しても削れる作業がありません
- 建物の共用エントランスに入退室管理があり、専有部の扉は日中開けたままにしている。この状態で専有部の錠だけを変えても、実際の出入りは何も変わりません
- 退去や移転が半年以内に決まっている。取り付けと原状回復の手間が、残りの期間で得られる効果を上回ります
- 管理を担当する人を決められない。アカウントの発行と削除を誰も引き受けないなら、鍵を配るより管理が煩雑になります
- 扉の構造が合わない。引き戸、特殊な形状のつまみ、扉の厚み、面付けの錠などは、後付けできる機器が限られます。カタログではなく現物を見ないと判断できません
見送ると決めた場合でも、鍵の運用は手を入れられます。外に出ている本数を減らす、誰がどの鍵を持っているかを一覧にして更新日を書いておく、時間外の出入りを事前申告にする。いずれも費用はかかりません。
賃貸オフィスでは、機器より先に扉の可否を確認します
賃貸物件では、専有部の扉であっても、扉と錠は貸主の設備であることがほとんどです。機器を選ぶ前に管理会社へ確認します。
- 専有部の錠に機器を後付けしてよいか。既存の錠を交換する形は許可されるか
- 原状回復の条件。粘着で固定した場合の跡、ねじ穴、交換した場合の純正シリンダーの保管義務
- 避難や消防に関わる要件に触れないか。扉の内側から鍵なしで開けられる状態を保つ必要があるかどうかは、自己判断せず貸主側の回答を取ります
- 共用部の扉(エントランス、ゴミ置き場、機械室など)は対象外か。共用部は原則として個別に手を加えられません
許可が下りやすいのは、既存の錠を残したまま内側のつまみを動かす形です。元の鍵がそのまま使えるため、退去時に機器を外せば元の状態に戻ります。錠前ごと交換する形は、原状回復のときに純正のシリンダーへ戻す必要があるため、外した部品を保管しておくことが条件になります。この保管を忘れると、退去時に費用が発生します。
問い合わせは口頭で済ませず、メールなど後から見返せる形で残します。担当者が替わったとき、許可の有無を示せるのは記録だけです。
タイプごとに、詰まる場所が違います
まず、扉に対する取り付け方で分かれます。
| サムターン後付け型 | 錠前交換型 | 暗証番号式(通信なし) | 物理鍵+キーボックス運用 | |
|---|---|---|---|---|
| 扉への加工 | 内側のつまみを覆うように固定する。扉に穴を開けない構成もある | 錠前ごと入れ替える。扉側の加工が必要になる場合がある | 錠前交換型と同等の加工が要ることが多い | 加工なし。扉の脇か建物の外に箱を付ける |
| 原状回復 | 元の錠が残るため戻しやすい。固定跡は残る | 外した純正シリンダーの保管が前提 | 同上 | ほぼ不要 |
| 電源 | 電池。切れると動かない | 電池が中心 | 電池 | 不要 |
| 通信が切れたとき | 遠隔での解錠と履歴の確認ができなくなる。手元の操作は生きる構成が多い | 同上 | 影響を受けない | 影響を受けない |
| 人が抜けたときの回収 | 相手の権限を消せば終わる。物の回収が要らない | 同上 | 番号を変え、残る全員に再通知する | 鍵を返してもらう。複製の有無は確認できない |
| 締め出しの起きやすさ | 電池切れ・故障時に物理鍵で開けられる構成かどうかで決まる | 物理鍵を併用できるかを事前に確認する | 番号を忘れた場合の復旧手段を確認する | 箱の番号が漏れると全員が入れる |
次に、解錠する手段でも詰まる場所が変わります。実際には複数を併用しますが、主として何で開けるかは決めておきます。
| スマートフォン | 暗証番号 | ICカード・タグ | 物理鍵(併用分) | |
|---|---|---|---|---|
| 一時的に来る人への渡し方 | 権限を送る。相手の端末とアプリの用意が必要 | 番号を伝えるだけで済む | カードを渡すため、物理鍵と手間は変わらない | 事前に手渡し |
| 用が済んだ後 | 権限を消す。相手の手元に何も残らない | 番号を変え、残る人に再通知する手間が毎回かかる | カードを回収するか、そのカードだけ無効にする | 返却を待つ |
| 漏れたときの範囲 | 個人単位で誰の権限かを追える | 番号は転送できるため、範囲を把握できない | カード単位で追える | どの鍵が出回っているか分からなくなりやすい |
| 手がふさがっているとき | 端末を取り出す操作が要る | 暗い場所や手袋では押し間違えやすい | かざすだけで済む | 鍵を差して回す動作が要る |
| 本人側の電池切れ | 開けられない。代替手段が必須 | 影響を受けない | 影響を受けない | 影響を受けない |
表から読み取れるのは、受け渡しの手軽さと、後から範囲を絞れるかが逆を向くことです。番号を伝えるだけの方式は渡すのが最も楽ですが、渡した後に範囲を戻せません。短期の出入りが多いほど、渡しやすさより回収のしやすさを優先したほうが運用は保ちます。
なお、施錠は自動化のなかでも難度が高い部類に入ります。止まったときに業務が止まるからです。着手する順番そのものを整理したい場合は、仕事部屋の自動化をどこから始めるかを先に見ておくと判断しやすくなります。
導入するなら、電池・通信・締め出しの3つを先に決めます
機器を選ぶ前に、次の3つに対する答えを用意します。答えが出ない機器は候補から外して構いません。
電池が切れたとき。残量の通知がどこに届くのかを確認します。管理者にだけ届く設定だと、その人が休みの週に切れます。交換を誰の仕事にするか、予備をどこに置くかまで決めておきます。そのうえで、切れた状態でどうやって中に入るのかを確かめます。物理鍵を残せる構成なのか、外から一時的に給電する手段があるのかで、備え方が変わります。
通信が切れたとき。ここは製品によって設計が分かれるところで、確認する問いは「事務所のネット回線が落ちた状態で、扉の前に立っている人は解錠できるか」です。遠隔操作と履歴の確認だけができなくなるのか、解錠そのものができなくなるのかは、大きな差になります。提供元のサービスが終了した場合に何が残るかも、同じ問いの延長にあります。
締め出されたとき。物理鍵を1本、事務所の外に保管します。全員が中にいる状況ではなく、誰もいない状況を想定してください。自動施錠を有効にすると、ごみ出しや荷物の受け取りで外に出た瞬間に締め出されます。導入直後の数週間は自動施錠を切っておき、運用が固まってから有効にするほうが安全です。
加えて、管理アカウントを個人のメールアドレスに紐づけないでください。担当者が抜けたときに権限ごと消えます。家庭向けの製品をそのまま持ち込むと、この点でつまずきやすくなります。個人アカウント前提の機器を業務で使うときの注意は、スマートホーム製品を仕事場で使うときの注意点にまとめてあります。
半年後に壊れるのは、機器ではなく運用のほうです
導入直後は、たいていうまくいきます。問題が出るのは、最初の設定をした人以外が運用を回し始めてからです。
起きやすいのは次の4つです。
- 新しく入った人へのアカウント発行が、設定した本人しかできない状態のまま残る
- 自動施錠にしたことで「最後に出る人が閉める」という意識がなくなり、窓や裏口の施錠確認まで抜ける
- 例外的な出入りへの対応(一時的な権限の付与、期限の設定)が口伝になり、担当が替わると誰もやり方を知らない
- 履歴が取れる状態になったものの、誰も見ないまま保存期間を過ぎて消える
対処はいずれも同じで、権限を出す手順と消す手順、電池交換の担当、締め出し時の連絡先を、機器の設定画面ではなくドキュメント1枚に書いておくことです。1枚に収まらないなら、設定が複雑すぎます。
機器を複数入れる段階に進むと、アカウント管理や管理者不在時の設計が施錠だけの問題ではなくなります。その範囲は小規模オフィスにIoT機器を入れるときの進め方で扱っています。
次にやること
判断がついていない段階なら、この順で進めます。
- 直近3か月で鍵を渡した回数と、回収できていない本数を数える。ここで動きがほとんどないなら、そこで終わりにしてかまいません
- 扉の内側を写真に撮り、つまみの形、扉の厚み、開き戸か引き戸か、錠が何か所あるかを控える。これがないと後付けの可否を誰にも判断してもらえません
- 賃貸なら、管理会社に後付けの可否と原状回復の条件を先に問い合わせる。回答が来るまで機器は選びません
- 許可が下りたら、電池・通信・締め出しの3つへの答えが用意できる機器に絞る
選定の段階まで進んだら、施錠以外の機器にも共通する判断軸をスマートオフィス機器の選び方で確認できます。連携・代替手段・管理者の3点は、どの機器でも同じように効いてきます。